灰野敬二 トーク・エッセー 9

 〈アナーキー〉って言葉じゃないから――。
 例えばロックという言い方をするならば、またこれしか出てこないけど、ジム・モリソンとジミヘンがいて、どう考えたってアイツら一番凄いのよ。ギターであれ以上のこと誰もやってなかったのよ。悪いけど、僕デレク・ベイリーはやっぱり凄いと思うの。ある意味においては、あの時ベイリーさんが何してたかっていう問題もあるけど。やっぱり位置っていうのは大切なのよ。これは誤解されるかもしれないけど、30人の前でやるパワーと1万人の前でやるパワーは違う。それは両方なきゃいけないのよ。それを用いたのはジミヘンだと思うの。別にジミヘンがすごく好きではないよ。位置としてね、位置は必要なの。一回は百万人の前に姿を現して位置が生まれる。自分の位置ではなくて、自分が全体から見られるべき位置、そこでいわゆるもう無記名性になり得るの。それはジミヘンじゃなくて、あるやったことが重要でジミヘンの必要ではない訳。ただ音楽の中でそういう事実があった訳だから。
 また間章に戻すけど、評論家としてはいなきゃいけない位置だ。でもそれが音楽全てに対しての包容を持ち得たかということにおいて、マニアックで終われちゃうの。それはよく吉沢(元治)さんがよく言ってたけど、我々こそが武道館でやらなきゃいけないって。音楽やってんだから、一生懸命に。なんで一生懸命にやってる人間が、客30人で、家賃どうしようとか考えなきゃいけないのかって。その部分がなくなったならばパワーが落ちていく。もちろん武道館で30人になるよ、現実には。でもその部分を一万人の人にわかってもらおうと思わなければパワー出てこないよね。
 だって僕はplan Bでパーカッションやって、確かに聞こえるっていうか、音のとどく範囲は上まであって、階上から苦情が来るとかね。壊したような音を出したら、「どうしたの!」って来るでしょう。あそこまでうるさくしてたらお巡りが来るよね。でも気持ちとしては宇宙に放ってる。僕にとっては音こそ空気にいったん触れれば、これはもう全部と触れたことになる訳だから、自分の意識の拡がりを持てればね。だからジャンルということにこだわることも怖いし、音楽が何だっていうことも規定する、設定することも怖いけど、それ以前に何か一つだけに留まることが一番怖い。間のやり方にしても、やはりある所をつついてるだけなんだよ。
 赤軍が一人も犠牲者を出さなければもっと凄いことができたの。俺はけして肯定なんかしないよ。内ゲバなんてのはダメな訳。ある人もよく言うけど、人ひとり説得できないで何ができるの? 納得してもらうことはすっごく大変なんだ。でもそれを希望として持たなければ、だって自分たちが世界革命って言ってることは世界の人間を幸せにしようと思ってる訳じゃない。それがたった一人の人間、それも仲間と思った人間と、もめることはいい、ただそれを力関係で刺殺するなんて言ったら誰も説得できないよ。
 ここで主語がなってないからいえるけど、革命なんて何にもないよ。革命っていうのは色んな言い方があるけど、現時点の人間の幸せなんか言い切ること願ってないも。それこそできたらば意識がタイトに戻れて、タイトに戻れるってことは未来に向かい合えるってことだから、そこで何が起きてるとか、何がマズクって悪くなっているのかを知りたいも。ホント冗談みたいだけど、人って対位置線にある人とは仲悪くなるんだよね。俺はね、やらないよ、この関係って手が届くじゃない、だから怖いから仲良くするんだよ。でもこの関係で手が届かないとなると本性が出る。何か言ったって良ければいいとか、痴漢があってかかってくるから対処できるか。この関係って何なの。人って……ミーティングしてる時俺は場所変えるから、こうしている時なんか悪かったんだけど、どうしてこうなったら(座席を移動して)良くなるとかね。ホントに情けないよね。
 なんでそういうふうに……やっぱり怖いのよ。怖いっていうのは究極的に死が怖いの。自分の痛みのわからないことは怖いの。僕は最近若いコとも話できるから思うけど、今のコって孤立することが凄く怖いみたい。だから内輪ぽっくても、嘘っぽくっても同じようにしていた方がいいんだ。でもそれを何とか個性と言いたい訳。僕たちが20年間くらいかけて考えて勉強したことって、二十歳くらいのコって感覚でわかることができるのよ。勉強なんかしなくっても。でも僕たちはどうして悪くなったのかとか、悪いのは何なんだろうって考えてるけど、その時代に彼らはいる訳だから、僕たちが遅れないようにしてなきゃいけない訳だ。さらに十年後のコたちなんてのは実際わかっちゃってるから。わかるってことはイイことと悪いことがわかるんだから、イイことをやりゃあいいのに、照れくさくなる。やっぱり、サティが秘密結社の究極的な姿は慈善団体だって言ってる。あれはね、僕は20年くらい前からひしひしと感じてるけど、そうだよなって思える。なんか始まって変な会議して、世の中が悪いとか言ってるより、みんなで集まって会議終わればいいんだよ。もちろん自分の作品とか作業はすべきだけどね。(終)